ナノ機械特性測定のためのAFMプローブ選択ガイドライン


ナノ機械特性評価用のAFMプローブを選択する際に考慮すべき事項を取り上げます。この分野の応用はますます広範になり、生物学、ソフトマター、変形可能な電子パーツなどで利用されています。ここではAFMナノ機械特性の研究に適切なプローブの選択に関する簡単なガイドラインを提供します。

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1. 正しいAFM測定方法を選択する

適切なAFMプローブを選択する際には、まず研究目的に適した測定方法で試料を分析しなければなりません。考慮すべき要素は複数存在します。第一に、必要とされるデータの種類(定量的か定性的か)です。次に、試料の特性(不均一性、付着特性、表面粗さなど)を考慮しなければならなりません。また、必要となる解像度を決定する必要があります。例えば、高精細な画像か、あるいは粗いピクセルマップかといった点です。最後に、ユーザーは許容できるプローブ-試料の相互作用レベルを決定しなければなりません。これは、非接触から、断続的なタッピング、長時間のコンタクト、さらには押し込みに至るまでの範囲です。

 AFMナノ機械測定において選択可能な一般的な手法は以下の通りです:

代表的なAFM動作モードの概要図

 

図1 代表的なAFM動作モードの概要図。 画像は Kim E. ら「A guide for nanomechanical characterization of soft matter」(STAR Protocols, 2025)より引用。CC BY 4.0 ライセンス(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)に基づき使用。

1.1 インターミッテントコンタクトモード - フィードバックモードでカンチレバーを共振周波数またはその近傍で振動させるこのモードでは、AFMのピエゾ変位と位相チャンネルをモニタすることで詳細なイメージングが可能となります。機械的情報は位相画像に記録され、測定されるコントラストに大きく影響します。セットアップは迅速で、鮮明な画像を得るために必要なキャリブレーションは最小限です。機械的情報は定性的なものに留まります。
1.2 ナノメカニカルイメージング – 試料に制御された力を加えながらイメージングします。インターミッテントコンタクトモードよりもはるかに定量的な機械的データを得られますが、大幅に多くの校正を必要とします。良好なイメージング分解能を達成できます。
1.3 力変調測定 – 設定されたフォースセットポイントで周波数掃引を行います。詳細な機械的情報の取得を可能にし、本質的にナノスケールでの動的機械分析を提供します。通常は、より大きな接触面積のAFMプローブで行われ、空間分解能が低下します。較正と測定に時間がかかります。
1.4 フォーススペクトロスコピー法 – ピエゾを伸長させて、AFM探針を線形的な動作で試料表面に押し付け、カンチレバーのひずみ量をモニタすることで探針-サンプルに加わるフォースを連続的に測定します。。完全なフォースディスタンスカーブを得られ、特定の点における正確なデータ取得が可能ですが、実験前に校正が必要です。直接接触のため、サンプルがコンタミする可能性があります。

Step1-正しいAFM測定方法を選択する

2. AFM測定モードに応じた適切なAFMプローブを選択する

次に適切なAFMプローブを選択しなければなりません。主なポイントはカンチレバーの剛性(ばね定数)と探針先端形状の2点です。

2.1. AFMプローブカンチレバーのばね定数は、対象試料の剛性に適しているものを選びます。つまり、関心のあるフォース範囲において、カンチレバーのたわみが試料の押し込み量と同程度であることが理想的です。AFMカンチレバーが硬すぎるとたわまず、知らずに試料にダメージを与える場合があります。一方、極端に柔らかいカンチレバーでは試料が変形せず、意味のあるデータが得られません。非常に強い凝着性を持つ試料の場合、より硬いカンチレバーを備えたAFMプローブを選択することが有用です。

2.2. AFM探針の形状は、探針-試料のインタラクションフォースにおける定数の一つを決めています。半径の大きいAFM探針はより広い領域を押し込み、より多くの物質を変形させ、押し込み動作が大きな探針-試料相互作用が発生させます。半径の小さいAFM探針は横方向の分解能を向上させますが、柔らかい試料ではダメージを与える可能性があります。

2.3 接触力学における直感は、適切なプローブを選択するうえで非常に有用です。以下のアルゴリズムを用いて適切なアプローチが可能です:
   2.3.1. 文献またはバルク測定から試料のヤング率 E, (剛性)を推定する。
   2.3.2. 接触半径aを用い、keff 2Ea, と仮定することで試料剛性を推定できる。
   2.3.3. ばね定数kがkeffと同等かわずかに大きいカンチレバーを選択する。
   2.3.4. 強い付着性を示す試料の場合、カンチレバーはさらに剛性の高いものを検討する。

粘弾性材料の場合、AFMカンチレバーの共振周波数と材料の予想緩和時間を考慮に入れる。
Step2-AFM測定モードに応じた適切なAFMプローブを選択する

3. AFMカンチレバーのキャリブレーション

次の重要なステップは校正であり、これにより定量的かつ信頼性の高い測定を保証できます。校正には相対校正と絶対校正があります。相対校正は迅速な実施と比較実験を優先しますが、装置間の比較精度は限定的です。絶対校正は精密な物性値が必要な場合に必須ですが、通常は大幅に時間がかかります。校正可能な具体的なパラメータは以下の通りです:

3.1. ばね定数 – メーカー提供値は公称値です。正確な結果を得るには、以下の一般的な方法のいずれかで校正を実施する必要があります:
   3.1.1. サーマル法 – 熱雑音からAFMカンチレバーのばね定数を推定する、等分配定理に基づく手法。
   3.1.2. Sader法 – AFMカンチレバーの平面寸法、材料特性、共振周波数、Q値に基づく統計的手法。
   3.1.3. 基準ばね法 – 事前に校正済みのカンチレバーに被測定カンチレバーを押し当てる方法。

3.2. 変位感度 – ばね定数が判明したら、カンチレバーの変位が検出器電圧信号にどのように変換されるかを校正する必要があります。通常、これは硬く変形しない試料表面上でフォースカーブを測定することで行われます。接触領域における曲線の傾きは、ピエゾ移動距離/ディテクタ電圧信号の感度を示します。

3.3. AFM探針面積の推定 – 以下の複数の方法で実施可能:
   3.3.1. 直接イメージング(SEMや、場合によっては光学手法による)
   3.3.2. AFM探針再構成 – 既知の特徴を持つ試料をAFMでイメージングし、得られた画像をデジタル処理する。
   3.3.3. ナノインデンテーション – 既知の弾性率を持つ試料を押し込み、そこから探針面積を推定する。

3.4. まとめると、一般化された体系的な手順は以下の主要ステップとなります:
   3.4.1. AFMカンチレバーのばね定数を決定する。
   3.4.2. 十分に硬い(変形しない)平坦面に対しカンチレバーのたわみを測定する
   3.4.3. AFM探針の面積を推定する
   3.4.4. 特性が十分に把握された試料を用いて校正を検証する 3.4.5. 特に長期間使用後や環境変化後には、AFMプローブを定期的に再校正する。

Step3-AFMカンチレバーのキャリブレーション

4. 結果の報告と分析

適切な分析と報告は、インパクトのある結果を得るために不可欠です。

4.1.まず、イメージングにおけるAFM探針由来の一般的なアーティファクトに留意してください (https://www.nanoandmore.com/afm-tip-shape-effects)

4.2. 分析前にイメージの明るさ/コントラスト調整やレベリング調整などの画像処理を適切に行ってください。これらの作業も特有のアーティファクトを生じさせ、むやみに適用すると測定結果の品質を損なう可能性があります。

4.3. 一般的なデータ解析手法として、画素値の統計的な解析や、異なる画像チャンネル(例:高さと位相)間の比較解析が挙げられます。フォーススペクトロスコピー法などの解析手法では、関連する機械的特性を抽出するために定量モデルを適用する必要があります。詳細な説明は本稿の範囲外ですが、凝着作用やコンタクトポイントの特定などの点に注意を払ってください。

4.4. データ報告においては、多くの詳細を伝えることが重要です。具体的には、AFMシステム、動作モード、使用したAFMプローブといった基本的な実験の詳細から始まり、キャリブレーション、試料調製、データ処理に至るまでを網羅する必要があります。これらの詳細の多くは本稿の範囲外ですが、使用したAFMプローブを適切に記述することは特に重要です。AFMプローブモデルを正確に述べるよう注意が必要です。AFMプローブ名は固有名詞であることは稀で、英数字コードや句読点を含むことが多く、記憶や適切な表記が困難な場合があります。しかし名称を正確に記載することで、他の研究者が再現実験を行う際の曖昧さを大幅に低減できるでしょう。

Step4-結果の報告と分析

結論として、厳密なAFM実験を行うためには、上記のプロトコルは良い出発点となります。Kimらによる最近のオープンアクセスレビュー(1)は、本稿で言及した全トピックを詳細に網羅し、さらなる研究のための広範な参考文献を掲載しています。

 

AFMナノメカニカル測定のための包括的な判断フロー図


図2 AFMナノメカニカル測定のための包括的な判断フロー図。画像は Kim E. ら「A guide for nanomechanical characterization of soft matter」(STAR Protocols, 2025)より引用。CC BY 4.0 ライセンス(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)に基づき使用。

 

(1)

Kim, E.; Ramos Figueroa, A. L.; Schrock, M.; Zhang, E.; Newcomb, C. J.; Bao, Z.; Michalek, L. A Guide for Nanomechanical Characterization of Soft Matter via AFM: From Mode Selection to Data Reporting. STAR Protocols 2025, 6 (2), 103809. https://doi.org/10.1016/j.xpro.2025.103809.

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